【読書記録】子どもの「非認知能力」を育むには…

書誌情報

 

ポール・タフ 著(高山真由美 訳)『私たちは子どものために何ができるのか 非認知能力を育み、格差に挑む』(英治出版/2017.9) (Amazonのリンク)

一読した期間:3月8日-3月10日

内容

 著者の前著である『成功する子 失敗する子』(英治出版/2013.12)で述べられた子どもの「非認知能力」を育むためには何をしたらいいのか、という疑問に応えるべく書かれた本だ。

 内容は、貧困家庭の子どもや親への外部からの支援が主となっており、これに関する実践事例が複数紹介されていた。本書では、「非認知能力」を、問題演習やワークで身に付けるような、つまり明示的に教えることができるスキルとしてではなく、「子供を取り巻く環境の産物」であるとしている。

 構成としては大まかに、「非認知能力」の概要、子どもへの支援、方策に分かれている。
 子どもへの支援を紹介する部分では、幼児期(就学前)の子どもへの支援と、学校における子どもへの支援の2つに分かれているが、これは筆者が、子どもを就学前と就学中との間で分断があるものと捉えたためではない。むしろ「子供時代は連続体である」ため両者の間には共通の支援が必要であるが、制度上、就学した子供は学校で過ごす時間が親と過ごす時間よりも長くなるため、学校で支援を行う方が効率がいいと考えられるためだとしている。
 実践事例は、その背景にある心理学や社会学の知見が示されたうえで紹介されており、読者がその実践の妥当性を判断できるようになっている。
 それらを踏まえて、最後に子どもの「非認知能力」を育むための具体的な方策が著者により提案されている。

感想

「非認知能力」の涵養

 かねてより私が感じていた、〈「非認知能力」と呼ばれる能力が大事なのはわかるが、結局それはどのように育めばいいのか〉という疑問への答えの一つが提示された一冊であった。
 これまでの大学の授業でも様々な本でも、国語という教科で育むべき「思考力・判断力・表現力」は「話すこと・聞くこと」「読むこと」「書くこと」の3領域として学習指導要領に記述されており、これを育むことが大切だ、というのは何度も繰り返しいわれていることだが、それはどのように育むことができるものなのか、という問いが解消されることはなかった。*1
 しかし本書では、教員の立場から子どもの「非認知能力」を育むために、子どもに対してどのように働きかけることができるか、といった方策が示されていた。もちろん、これはアメリカの話であるから、すべての事例がそのまま日本の児童生徒にも当てはまるとはいえない。しかしながら、本書で示された概念や心がけは国や制度の違いを超えて私たちも実践し得るものだと考えられる。
 これを踏まえて、私はひとりの教員として、生徒への声のかけ方や困難に陥った生徒への助言などに気を付けていきたいと考える。教員と生徒の関係には、上下関係が付いて回る。言い換えると、生徒から見て教員は、無条件に「上」の立場の人間となってしまいやすい。このことに無自覚でいると、教員は生徒を委縮させてしまい、場合によっては生徒に敵とみなされることも考えられる。そのような状態では、教員から生徒に適切な支援などできるはずもない。そうであるから、普段の声のかけ方や助言の方法を気を付けることで、自分は生徒にとって味方であることを示し、円滑なコミュニケーションをとることができるよう心掛けたい。そうすることで、生徒にとって安心して過ごすことができ、生徒が必要とするときにいつでも適切な支援を提供することができる環境を整えておきたい。

子どもの貧困

 本書ではアメリカの貧困家庭の子どもを主な射程として論じられたが、日本においても、子どもの貧困は無関係な問題ではない。日本の貧困の多くは、相対的貧困とよばれる。これは、飢餓などの生命の危機に瀕する状態に陥り得る絶対的貧困とは異なり、直接的な生命の危機はないが、所属する社会の生活水準にみあった生活をすることはできない状態のことを指す。このタイプの貧困は、周囲の人間から見て著しく貧しさがわかるわけではないため、周囲の人間が気付くことは難しい。そのため、相対的貧困に陥っているにも関わらず、必要な支援を受けることができないままでいる家庭・子どもが多く存在するという。
 本書において、「非認知能力」は貧困状態の子どもでは十分に発達していない可能性があることが示唆されている。そのような子どもに対しては教員から適切な支援を行うことが必要であり、そうすることで「非認知能力」の発達が促され、子どもが学習に取り組みやすくなるのだという。
 このことは、日本の学校の教室にも貧困状態の子どもがいるにもかかわらずそれが見えていない可能性が大いにあること、そしてそのことに起因して、児童生徒に学力や生活上の問題が生じているかもしれないことを示唆している。そうであるから、教員は目の前の児童生徒に生じている問題を口で注意するだけではなくて、その児童生徒の背景に原因があるかもしれないことを意識し、適切な方法で改善を促すことが重要なのだ。

今後読みたい本

 本書ではいくつかの教育心理学の知見が紹介された。そのうち「動機付け」の話題と「学習のための積み木」モデルの話題は私にとってとても興味深かった。
 「動機付け」は、教育心理学の授業や教職教養の勉強などで触れていたため、知っているつもりになっていたが、「内発的動機付け」が「外発的動機付け」に変貌してしまうプロセスや、どのような条件の下「内発的動機付け」が強化されるのかなど、知らないことが多かった。
 「学習のための積み木」に関しては、全く初めてその存在を知り、目からうろこが落ちるようだった。
 これらの話題は教員として知っておかなければならない事柄だと思うし、かなり興味があるので、今後読む本の有力候補としたい。

*1:周りの人間はそんなこと思っていなさそうだったから、この疑問は私の不勉強に起因する見識の狭さゆえなのかもしれないが。